実際の楽曲に学ぶ、バンド系の曲におけるドラムフレーズのヒネり方
皆様いかがおすごしであろうか? 最近引越しが確定した野地剛である。
生まれ育った小田原を出て東京に住むことになったので色々と不安はあるが、正直新生活には胸が踊るばかりである。なんせ初めての自分の城、部屋で何をしようが背後を気にする必要はないのだ。
別にやましいことばかりしてる訳ではないのだが、自分は心の太い人間ではないので、今こうやって記事を書いているのをジロジロ見られるだけで集中が切れてしまう。自分にとって、周囲の目を気にする必要もなく、好きな音楽を好きな音量で聴きながら作業ができるのは大きなメリットなのだ。
さて、そんな自分であるが、最近やっと新曲がほぼ完成した。
ドラムという気軽に録音できない上に打ち込みと相性が良い楽器しかできない自分が曲を作るとなると、ほぼ全ての楽器をMIDIによる打ち込みで制作することとなり、時間がかかってしまうのだが、なんとか今回も一曲挫折せずに仕上げることができた。今度はPVを作っているので、まだ公開は先だが、仮ロゴができたので記事とあまり関係ないけど貼っておく。
好きな人が死んじゃったからあたしも死ぬ的な歌。酷いテーマ。
今回の曲は初めて三連符ベースのリズムで作ったので、ドラマーなのにドラムパートで悩んだ。
しかし他の作曲者の場合、よほど引き出しの多い人でない限り、ドラマーでない人は自分以上にドラムパートに苦戦していると聴く。
DTMの普及により色々な人が作曲をしてるとはいえ、その内のドラマー人口は1割弱か、もしくはもっと少ないはずだ。
そんなアマチュアDTM界に、「ギターやシンセ、ボーカルで個性は出せるが、ドラムがどうも……」という問題が溢れるのも頷ける話である。
そこで今回、自分が持っている「ドラムフレーズ作り」の方法論を記事にできないか、と思い至ったわけだ。
作曲経験の浅い自分が上から物申すのもヘンな話であるし、自分よりドラムに詳しい作曲者もごまんと居るのは分かっているが、自分もドラマーの端くれである。
この記事が、イマイチ自作のドラムパートに満足ができない人の一助に、もしくは暇つぶしにでもなってくれれば幸いである。
そもそも一番最初に作らなければならない「ドラムフレーズ」
皆さんは、いざ曲を作ろう、となって、一番最初に頭の中に浮かぶのはどのパートだろうか?
ギターやボーカルと答える人が多いかと思うが、脳内とは裏腹に、実際にパートを現実の音に落とし込む作業はドラムパートから始めることが多い(リズムに対する支配的パートであるとか音量の基準にしやすいとか理由は様々だ)。
そしてその順序で作曲をするとなると(ドラムを中心に曲を組み立てるならともかく)ギターやボーカルのフレーズに適したドラムフレーズといったモノはある程度絞られており、自由に変更するわけにはいかない。
なので、大多数の人は「現在頭の中にあるメインリフやメロディー」に対するドラムフレーズを考えることになる。
この時点で作曲者の頭の中には既に(善し悪しはおいといて)漠然としたドラムフレーズがあるはずだ。
基本は、それを適度にヒネり、足し算or引き算したものが正解のフレーズである。
しかし、正解ばかり求めていると陳腐になってしまうのが音楽の面倒な部分であり、面白い部分だ。
ここで自分の頭の中にある漠然としたドラムフレーズをいかに昇華・出力し改造・最適化できるかで曲のクオリティが大きく変わる。
そのためには様々な計算が必要だが、「こうやってヒネる」と言った指針が参考になるのは確かだ。
目次
というわけで、以下に全7章で、自分がドラムフレーズをヒネるさいに使うテクニックを色々なアーティストの曲とともに解説していくので、自分の想像と近いフレーズがあったら参考にしてみよう。
- ゴーストノート等の裏拍に仕込む音符
- 刻みモノの音符量
- 実質テンポの2倍速or1/2倍速化
- バスドラ・ハイハット・スネアの関係を壊す
- オカズとフレーズの交換
- 三連符と二連符の混合
- ワンフレーズ押し・単純化
1:ゴーストノート等、ウラにスネアを仕込む
普通のバックビートの位置とは別に、ごく小さいスネアを入れるのは常套手段だ。
このスネアを入れる部分はぶっちゃけ、16分ウラ(シャッフルならば三連符の頭以外)であれば比較的どこに仕込んでもそれっぽいフレーズになるので、直感で打ち込んでみよう。
ここでもうワンランク上の細工をしてみよう。このゴーストノートを一発ではなく、32分音符の二発に変更するのだ。
この曲のイントロで使われているフレーズのゴーストノートが二発になっているのが分かるだろうか。あまり使いすぎるとクドくなってしまう可能性もあるが、このテクニックを使うことでこの曲のように、引きずったようなグルーヴ感を出すことが可能だ。
また一小節内に一個までとかいう制限も存在しないので、やりすぎない程度に詰めこむのも手だ。
この曲のイントロのように、バックビートをしっかりと打ちつつもだいぶ多めのゴーストノートを入れることにより曲にリズム的隠し味を与えられる。半分以上の16部ウラにゴーストノートが入っていようが曲、フレーズによってはいいアクセントになる場合もある。
よりハイレベルなテクニックとしては、バックビートと同じ音量でウラのスネアを鳴らしつつ、バックビートを鳴らしたり鳴らさなかったりする手法がある。
この曲ではもはやバックビートという概念が薄れてしまったかのようなリズムに聞こえるが、その他のパートだけを聴いてからドラムパートを想像するのであれば、大体の人が一般的なバックビートのフレーズを想像するだろう。曲にもよるが、このような複雑に聞こえるフレーズも試しに他パートと合わせてみたらマッチしている可能性がある。たまには突飛な実験もしてみるといいかもしれない。
2:刻みモノの音符量を変える
刻みモノとは自分の造語で、ドラマーが一定のリズムで刻んでるハイハットやライドのことである。
普通、この刻みもののリズムはフレーズごとに一定で変わらないものだが、急に8分を16分に変えたりするとバス・スネアが同じリズムであっても全く違うノリを演出できる。
この曲は全体的にクローズハイハットを8分で刻んでいるのだが、1:52~からの二回目Aメロ前半のみ16部刻みのハイハットが使われており、単純なAメロの繰り返しになるのを防止している。こういった工夫がリスナーを飽きさせないポイントとなっているのだ。
この曲では4:00から始まる終盤のギターソロ部分でのクラッシュシンバルに注目してみてほしい。ここでのギターソロは同じフレーズを二回繰り返す(二回目はツインギター両方が同じフレーズを弾いてコーラス感をだしているらしい)構造になっているが、前半は4分で鳴らされていたクラッシュシンバルを、後半では2分で鳴らしている。わざと音符を減らすことによって、曲がクライマックスへと向かっている説得力を増している点は目立つ工夫ではないが、鮮やかで見事だ。
また同曲中、2:02~からはバスドラムを8分で刻んでいるが、もう一回同じフレーズを繰り返すときは16分にチェンジアップしているのも似たようなテクニックと言えるだろう。
3:実質テンポの2倍速or1/2倍速化
曲には当然テンポがあるが、バックビートが明確な曲の場合は曲の2倍速化or1/2倍速化がよく使われる。
例えばこの曲の1:56~は、2・4拍目にスネアが鳴ってるフレーズから3拍目にスネアの鳴るフレーズへと変化しており、実質テンポが1/2倍速化している。その後に1・3拍目にスネアがなる、いわゆる「頭打ち」のサビへとつながるので、目まぐるしく変わるドラムフレーズがこの曲の魅力にもなっているのだ。
そしてもっと細かく、1フレーズの中で実質テンポを半分にしたり倍にしたりする例もある。この曲の全編を通した基本フレーズが普通の8ビート+それを二倍に引き伸ばしたかのような擬似16ビートの組み合わせであり、リスナーに妙な浮遊感を与えることに成功している。
この曲はかなり極端な例で、バックビート主体ではなくブラストビート主体なので1:32以前と以降では実に1/64倍速のテンポチェンジをしていると言えなくもない。実質テンポを落としてもバスドラがかなり複雑かつ早いので攻撃性は失われていないものの、極端なノリの変更が機械のようになりがちなこの手の曲の貴重な個性に貢献している。
4:バスドラ・ハイハット・スネアの関係を壊す
ドラムフレーズのほとんどは、刻みものとしてのハイハット(またはライドやフロアタム)とグルーヴの要であるバスドラ、バックビートの中心であるスネアの3つを基本に構成されている。
しかし、この関係性を意図的に崩すとリスナーの意表を突くことが可能だ。
この曲ではハイハットとスネアが等価に扱われているようなドラムフレーズが使われている。普通はハイハットが基本のリズムを刻み、スネアで曲中のアクセントをつけていくものだが、バスドラと共に鳴らされるハイハットとスネアが一緒の役割で曲に絡みつくこのフレーズは不思議かつ、面白い効果を曲に与えている。
この曲の0:49~から始まるサビはいたって単純、クラッシュ(刻みモノ)とバスドラ、スネアを同時に4分で叩くというだけのフレーズである。誰もが思いつくであろうが、やってみるとかなりの破壊力と説得力を持つ、コロンブスの卵的フレーズと言えるだろう。
スネアを使わずにバスドラ+チャイナシンバルでバックビートを表現しているのがこの曲の0:35~から始まるAメロだ。このAメロの後に直接サビへ移るのだが、実はそのときの、音符のタイミングは全く変えずにハイハットをバスドラに、バスドラ+チャイナシンバルをスネアに代えて演奏している点がこの曲のポイント。ノリは一切変えずに、ハイハット・バスドラ・スネアの関係を正常に戻すことで雰囲気はちゃんと盛り上げることに成功している。
5:オカズとフレーズの交換
オカズとは曲が切り替わる時に入るタム回し等のことであり、普通、フレーズ本体に比べて短い時間しか演奏されない。
しかし、そんなオカズを繰り返し演奏することでそれ自体をフレーズにし、まるでドラムソロのような派手なフレーズを作れる。
この曲の1:15~から始まるサビ部分はそのほとんどがオカズに使われるようなスネア連打やタム回しで構成されており、サビの強烈な盛り上がりに一役買っている。
この曲ではほぼ全編に渡って、オカズに使われるようなスネアの連打でフレーズが構成されている。連打を延々続けているので、もはや速度ではなく、ジリジリと迫り来るような感覚を曲に与えている。
また、オカズをフレーズにするだけでなく、フレーズをオカズにする例もある。
この曲の1:20~から始まるサビの一番最後部分に2小節だけ前述した「実質テンポ2倍速」に該当するツービートが挿入されており、フレーズがフィルインの代わりを果たしていると言える。
6:三連符と二連符の混合
通常であれば、基本16分単位の曲であれば二連符系の音符しか使わないし、シャッフル系の曲であれば三連符系の音符しか使わない。
だが、そこであえて、相容れないはずの対立する連符を仕込むことで、リスナーの関心をひきつけることができる。
この曲の最初及び4:38~のドラムフレーズは三連ベースと16分ベースのリズムが交互に現れる。本来なら違和感を生んでしまいそうなフレーズだが、曲の性格にさえ合っていれば、このように実際マッチしている場合もある。
この曲の2:01~からは三連符ベースのリズムと16ぶベースのフレーズが交互に現れたかと思いきや、もっと短いスパンで交互に現れたり、16ベースの時に一瞬だけ3連符が入ってきたりと、目まぐるしい勢いで二つが入れ替わる。テクニカル路線の曲を作るときに参考になりそうなフレーズが盛りだくさんの曲だ。
7:ワンフレーズ押し・単純化
曲によっては、ドラムのフレーズをいちいち切り替えないで、ほとんど一種類のフレーズだけで一曲を押し通したほうがいい場合もある。ドラム本来の目的であるリズムキープとメリハリを付けるという二つの仕事をちゃんとこなしているのであれば、曲の見せ場は他のパートに譲り、自身は縁の下の力持ちに徹するのも立派なドラムパートなのだ。
この曲は8割方、刻みモノをハイハット・フロアタム・ライドで変えるだけのワンフレーズによって構成されている。刻みモノを変えるだけで雰囲気ががらっと変わる好例だ。
この曲は僅かなオカズを除き、全てがほぼ同じフレーズで構成されている。しかし、それでいてちゃんと盛り上がるところは盛り上がるのがすごい。曲を見極め、ドラムが余計なことをせず、ドラムとしての使命を全うした名作と言えるだろう。
まとめ
自分の趣味が色濃く出てしまったが、いかだったろうか?
ここで最後にひとつ、今回最後に紹介したTOTOのドラマーであるジェフ・ポーカロが遺した最初で最後の教則ビデオを紹介したいと思う。
ドラマー向けの教則ビデオではあるのだが、このビデオは「どんなフレーズで曲を作っていくべきか」という要素が非常に強いので、ドラマー以外の、特に作曲をしている人にぜひ見てほしい。美味しいフレーズの数々とともに、どのようにドラムパートを作っていけばいいかが分かるだろう。
またビデオの中でジェフ・ポーカロがドラマー向けに、自分のテクニックを磨くためには、たくさんのレコードを聴いてよく練習することが大切、言っていたのだが、これは作曲をする人にも言えることだと思われる。
他のパートにも言えるだろうが、魅力的なドラムパートを生み出す秘訣は、ヒネりの前に知識の多さだ。
自分も今回は偉そうに記事を書いたが、もっと色々な音楽を聴いて、ガンガン曲を作って、作曲で人に自慢できるレベルになりたいものである。
しかし、そのためにはどれだけ私生活をストイックに過ごし、どれだけ音楽に時間を投資出来るかにかかっているが、webデザインの記事なんかも合わせて書いている自分には……いや、がんばろう。
皆さんの作曲活動にも幸あれ。
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