皆様、いかがお過ごしであろうか? 2017年も2月になってやっとブログを更新した野地である。
去年は音楽系の記事をあまり書かなかったので久々に脳にキたシリーズを書いてみたいと思う。
今回紹介する曲はなかなかにディープかつグロいので、苦手な方は注意していただきたい。
が、こういうジャンルを愛する人々の間では最早聖典と言われていると言っても過言ではない、というアルバムの代表曲なので、一ジャンルの最高峰といったモノを体験したい人には是非聞いて欲しい一曲だ。
アルバムジャケットからしてグロいが、レッツトライ&エンジョイ。
目次
Cryptopsyというバンド
Cryptopsyは1988年にカナダで結成されたデスメタルバンドだ。
誤解されがちだが、デスメタルというジャンルは必ずしも「The 悪」といった思想を柱に音楽へと展開していくのではない。
アートワークや歌詞がおどろおどろしいのは事実なのだが、彼らはどちらかと言うと「他とは違う、という価値」や「高い演奏テクニック」等を原動力として音楽を作っていく。
反社会的な思想(特に反キリスト)を全面に押し出したジャンルはブラックメタルと呼ばれており、大抵の人がデスメタルと聞いてイメージするバンド像はこちらの方が近いだろう。
特に近年のデスメタル界では演奏技術を特徴としているバンドが殆どであり、Cryptopsyはそんなデスメタルバンドの代表格である。
Cryptopsy = 解剖 という名を裏切らない「凶暴性×知性」を持つこのバンドは、デスメタルの基本である「重さ」や「速さ」をしっかり押さえつつも楽曲にキャッチーな個性を乗せられる稀有なバンドだ。
メンバーチェンジが激しくメンバーは流動的(オリジナルメンバーは一人も残っていない)でありつつも、実質的なリーダーであるフロ・モーニエ(Dr)を中心に全員が一貫して凄まじい演奏技術の持ち主で、ドラムに限らずギター、ベースもマニアを唸らす演奏を聴かせてくれる。
個人的にフロ・モーニエは最も尊敬すべきドラマーの一人であり、速さで話題になることが多いにもかかわらずメタルだけでなくジャズもこなすという彼の引き出しにはただ感服するばかりだ。
しかその演奏技術の高さだけに甘んじない楽曲の個性こそがCryptopsyの真骨頂で、短い間にリフ(いわゆるフレーズ)を次々切り替える複雑な展開が他のバンドに与えた影響は大きく、さらにキャッチーかつ耳に残るという点は多くのデスメタルバンドが犠牲にしているツボだろう。
「テクニックよりもグルーヴや面白いアイディアに目を向けていきたい」とフロが言うように、特徴としてもいい位の高い演奏技術を土台とし、更にちゃんとした味付けができるバンドなのである。
今回の一曲「”Phobophile”」
人により好みは様々だが、多くの人がCryptopsyのベストアルバムとして挙げるアルバムが今回紹介する一曲を収録する「None so Vile」だ。
Google翻訳にアルバム名を入力したら「それほど悪くない」と返ってきたが、少なくともデスメタル界では名盤とされているのは間違いないだろう。
一枚を通して凄まじい音の奔流と知性のエッセンスを感じ取れるが、2曲目の「Slit Your Guts」と共にこのアルバムの顔とされているのがこの6曲目、「Phobophile」である。
多くのポピュラーな曲ではAメロやBメロ、サビというセクションを持ち、それらを繰り返す場合が多いのだが、デスメタルではメロとサビ(いわゆるヴァースとコーラス)という概念が存在しない曲が多く、悪く言えば曲の最初から最後まで盛り上がりっぱなしのことが多い。
この曲にも明確なサビはないのだが、Cryptopsyの曲は展開が一辺倒なことがほぼなく、むしろ一般的な曲よりも展開に色数が多いことが特徴で、この曲もまさしく多彩な展開で楽しませてくれる一曲だ。
厳かなピアノで始まり、アルバム中の休憩地点だろうか、と油断させておいたところで、ベースが不穏なメロディーを奏でだす。
このベースが弾いているフレーズがこの曲のメインフレーズなのだが、おどろおどろしい中にもキャッチーさが感じられて耳に残るのがこの曲を名曲たらしめている一因だろう。
そして突然加わるドラムとボーカルで曲が本格的に始まる。
容赦ないドラムに圧倒されるが、何と言っても度肝を抜くのはボーカルだ。
バンド説明では書かなかったが、このアルバムの頃まで在籍していた(後に再加入したが、再脱退してしまう)ロード・ワームのボーカルはCryptopsyの大きな特徴の一つであり、初めて彼らの曲を聴く人は驚くことだろう。
デスメタルの特徴であるデスボイス(グロウル)は聞きなれていないと本当に人が歌っているのかと不安になるのだが、彼のデスボイスはそのさらに上をいく。本当に何を言っているのか分からないのだ。
歌詞カードを見ながらでも言葉が追えないほど歌としての原型を保っていない彼のボーカルはある意味、ボーカルだけが主役ではなく、あくまで楽器の一つであるとするデスメタルの最終形態なのかもしれない。
そんなボーカルの裏でギターとベースが先ほどのメインフレーズを奏でるのだが、爆速のドラムに裏打ちされるだけでガラッと印象が変わるのがよく計算されている。
同じワンフレーズでも各パートの組み合わせが違ったり、ドラムのノリ・フィル(小節の切り替えに演奏される特徴的なフレーズ)が違ったりすると飽きがこないものだ。
そして爆速から一転、まるで「来るぞ、来るぞ」と言っているかのような低音から徐々にテンポが上がってくるセクションがやってくる。
テンポチェンジの冒頭部分でもただでさえ早いドラムがジリジリと速度を上げる展開は良い意味で呆れるような凄みを持つのだが、一瞬入るボーカルの直後に繰り出されるブラストビートはさらに理解を超えてくる速度。
一聴すると両手でスネアを叩いているかのようだが、実は右手でも同じ速度でチャイナシンバルを叩いており、フロは人間離れした速度を視覚的にも楽しませてくれるのだ。
フロ本人によるドラムの演奏風景。言葉足らずで申し訳ないが、ヤバい。
そんな凄まじい速度のドラム+拍子感覚の狂った弦楽器隊がスマートに着地し、さらに早くなったテンポのまま曲は続く。
凄まじい速度の中でも複雑さを失わないリフはまさしくCryptopsyらしい。
ギターとベースのリフが次々と変わる中、ドラムも同じペースを保ちつつどんどん刻み方を変えてくる。
大げさに言えば、この曲だけで3曲分のアイディアが使われているのではないだろうか。
詰め込めばいいってものではないが、フルコース料理のように計算された調和はやはり味わい深く心躍るものだ。
そして楽器陣による四分音符での重厚なキメを経て、曲は違和感なく元のテンポに戻る。
曲の展開を複雑にすればするほどキッチリ元のノリ着地するのは難しいものだが、今までの爆速区間から粘っこいセクションを経てメインフレーズに戻っていく様はシビれる部分だ。
そして先ほどの徐々にテンポチェンジをする前にあった、焦らせるようなフレーズが再び演奏されるのだが、ここでリフに徹していたギターが待っていましたとばかりに暴れだす。
そしてテンポを上げる代わりにメタルのお約束であるギターソロが始まるのだが、この高速テンポの中でキャッチーさを失わずにキメまくるギターソロには開いた口が塞がらない。
しかし名目上はギターソロでも主役はギターだけではなく、バックのドラムもフロントのギターを喰ってしまう勢いで強烈だ。
ここまでフィル部分以外で封印してきたツーバスによる高速連打がギターソロの裏でエンジン音のように襲い掛かり、両手も容赦なくクラッシュシンバル+スネアドラムによるブラストビートを繰り出してくる。
サビが存在しないと先述したが、実質的なサビ部分はこの部分だろう。ボーカルが主役でないサビというのはある意味メタルの運命なのである。
そして、最後の部分までキメッキメのギターソロが終了すると今まで黙っていたボーカルが曲を畳みにかかる。
お馴染みのメインフレーズが続くが、最後の部分はまさにフィナーレ、といったリフに切り替わり、ボーカルの言葉にならない唸りで曲は幕を閉じる。
メタルが好きな人は是非アルバムの流れの中で聴いて欲しいが、メタルに馴染みが無い人は某ラーメン屋のごとく、日を開けて三回聴いてみてほしい。
一番最初に聞いた時の驚きを楽しむのも一興だが、一曲としては多すぎる情報量を詰め込んでいるこの曲は聴き込むことで味わい深くなっていく類の曲なのだ。
まとめ
大体の人が苦笑いしそうな濃いい一曲に無茶苦茶な解説を添えた今回の記事だが、いかがだったろうか。
どんな物事であろうと大体は中心となる塊があり、ポピュラーと評されるそれは大多数の人々に愛される理由がある。
それの真逆に位置するモノは総じてアウトサイドで万人には受け入れがたいものだ。
しかし文化において盤石なモノは中々出現しない。大抵はものすごいスピードで流行り廃れ、入れ替わっていく。
アウトサイドで輝くトップランナー達は、一歩間違えば多くの人から愛される素質を持つ存在ばかりだ。
Cryptopsyは間違いなくアウトサイドな音楽を実践しているが、それでも一ジャンルの中でトップクラスに輝くバンドであることは間違いない。
常に食べるモノはポピュラーかつ健康的であるのが望ましいが、スパイスなくして人生は楽しめないだろう。
スパイスというには強烈すぎるかもしれないが、記事を読んでくれた読者の刺激になり、願わくばアウトサイドなモノを楽しむきっかけになれば幸いである。
いつかこの曲のドラムが叩けるようになりたいなぁ。