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動画編集者向けAdobe Audition を使った音声編集 特殊効果編

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皆様、いかがお過ごしであろうか? 最近このサイトのリニューアルと新曲のPV作成に苦労している野地である。

このブログの根本はWordPressなので改造に関するノウハウはネット上にいくらでもあるのだが、やはり「触って慣れろ!」的な世界ではあるので、基本はトライ&エラーの繰り返し。どうにも時間がかかるものだ。

そして、このブログに「音楽・DTM」というカテゴリーがあるにもかかわらず、一向に完成する気配のない新曲。

実は曲自体は既に完成しているのだが、それに付随するPVがまだほとんどできていないので、公開まで至らないのである。動画というコンテンツは(個人的には)プログラミング等より分かり易い分野のように感じられるが、なかなかどうして、いざやってみるとしんどく、難しい作業なのである。完成次第公開+記事にするのでヨロシク!

さて、今回は三回に分けて連載するAdobe Auditionを使った音声編集講座のラスト「特殊効果編」をお届けしようと思う。

前二章分で視聴者にとって聴きやすく、クオリティの高いオーディオデータの作り方を説明してきたが、今回はそれに加えてオーディオデータに特殊効果をかける方法を紹介していこう。

具体的に言えば、音声にエコーをかけたり、声を歪ませたり、音を左右に揺らしたり等、上手く使えば動画のアクセントになりそうな機能が色々あるので、是非マスターして良い動画作成に役立ててほしい。

目次

今回紹介する特殊効果は主に四種類に大別される。「リバーブ・ディレイ(残響・繰り返し効果)」「パン(L・Rの操作)」「コーラス・フランジャー・フェイザー(音に厚みを持たせる)」「ピッチシフター・フィルター・ディストーション(音質の加工)」の四つだ。それぞれ単体で使うだけではなく、それぞれを組み合わせて使うことでさらに効果的な特殊効果を加えることができるので、各自で遊びつつ適切な効果を探して欲しい。

  1. リバーブ・ディレイ(残響・繰り返し効果)
  2. パン(L・Rの操作)
  3. コーラス・フランジャー・フェイザー(音に厚みを持たせる)
  4. ピッチシフター・フィルター・ディストーション(音質の加工)
  5. まとめ

リバーブ・ディレイ(残響・繰り返し効果)

まず、効果として一番分かり易く、使用頻度の高い「リバーブ・ディレイ」の説明から始めたいと思う。

これらエフェクターは原音を反復させたものを加えることによって音の広がり感を演出できるもので、俗に「空間系」と呼ばれるモノの一種である。

リバーブ

リバーブは自然界に存在する「残響」をシュミレートしたエフェクターだ。

人間は音を聞くときに、音源(スピーカーや話しかけてくる人の声など)から最短距離で飛んでくる音の波以外にも、音源から床や壁、天井へぶつかり反射してきた音も聞いている。これが「残響」と呼ばれるモノの正体だ。

通常の部屋などでは残響は感じづらいのだが、これがだだっ広い空間(教会やお寺など)では反射してくる音が、音を聞く人に届くまでの時間が長くなるため顕著になる。さらに壁の材質(木造の物件なのか洞窟なのか)や内部構造の複雑さよっても反射してくる音の量や質が変わってくるため、結果音を聞いた人は「この音声を録った場所は大ホールとかかな?」「多分、この場面は洞窟だろう」と直感的に判断するのだ。

この残響音を人工的に作り出すのがリバーブであり、具体的には原音をぼかした音を原音の上に重ねることで残響音を演出している。

ディレイ

実際にはDTM(作曲)分野で使われることの多いエフェクターだが、ディレイもリバーブと同じく、原音を加工したものを原音の上に重ねるエフェクターだ。リバーブとの決定的な違いはぼかした原音ではなく、そのままの原音を徐々に音量を小さくしていきながら繰り返し重ねていくという点である。自然現象で言えばやまびこのような効果とも表現できるだろう。

この繰り返し効果はリバーブの残響とは違い、普段の生活では中々聞きなれないものではあるが、その分視聴者に与える印象も強烈なので、上手く使えば音声を普段とは違った雰囲気に加工できる。例えば、夢の中や、意識の中で響く声など、非現実での音声を表現する場合などにはよく使われる。

実際の使い方・リバーブ

適用したい部分の選択範囲を作ったら、上部メニューの「エフェクト」から「リバーブ」を選択し、任意のエフェクターを適用しよう。

リバーブに関しては5種類のエフェクトが用意されているが、音声加工用途であれば最初の「コンボリューションリバーブ」か「リバーブ」で事足りるだろう。

双方共にすぐさま使えるプリセットがあるので、まずはそこから大体の目的にあったプリセットを選ぶとよい。

もし、細かな調整が必要だと感じたら、目的の効果に近いプリセットを選択した後で各ツマミを調節していく。

同じリバーブでも両者で調節できるツマミがだいぶ違うが、それぞれ解説すると、

コンボリューションリバーブ

「インパルス」
空間の設定。「教室」や「巨大な洞窟」など、設定した空間の質感が適用される。

「ミックス」
このエフェクトをかける量。値をあげれば単純にリバーブの量が増える。

「低域ダンピング」
新たに加えたリバーブ音から低音をカットする量(原音には影響しない)。

「高域ダンピング」
新たに加えたリバーブ音から高音をカットする量(原音には影響しない)。

「ルームサイズ」
部屋の大きさの設定。値を大きくすれば、より大きな空間でのリバーブ効果が得られる。

「プリディレイ」
初期反射が鳴るまでの時間。前項のルームサイズと同じく、上げると大きな空間でのリバーブ効果が得られる。

「幅」
値を上げるほど、音が左右に広がって聞える。

「ゲイン」
単純に最終的な音量の調節。

リバーブ

「ディケイタイム」
音のぼかし具合。値をあげるほど、リバーブ効果が強くなる。

「プリディレイタイム」
コンボリューションリバーブの「プリディレイ」と同義。

「ディフュージョン」
値を上げると左右での音のバラつきが顕著になり、ステレオ感が上がる。

「知覚」
反射率。値を上げると設定環境の質感が変わる。

「ドライ」
原音の音量。

「ウェット」
リバーブ音の音量。

といった具合となる。一気に覚えるのは正直難しいので、直感でツマミを弄りつつ、自分の耳で目的の音を探すのもアリである。

実際の使い方・ディレイ

対して、ディレイの場合はどうか。

ディレイに対応するエフェクトは「エフェクト」メニューの「ディレイとエコー」に要されている三種類のエフェクターである。

「遅延」と「エコー」に関してはこの後のパンに関する部分にも関わるエフェクトであるため、ここでは「アナログ遅延」について説明したいと思う。

「アナログ遅延」は三種類の中でも最も単純で分かりやすいディレイだが、設定できるツマミの種類は結構豊富だ。

説明すると、

「ドライ」
元音源の音量。

「ウェット」
新たに付け加える遅延音の音量。

「ディレイ」
遅延量。値を上げるとそれだけ遅れて遅延音が再生される。

「フィードバック」
遅延音の減衰設定。100%以下ではいずれ遅延音が小さくなっていくが、100%以上に設定するとむしろ大きくなっていき、原音が途切れるか小さくならないと音量が限界まで大きくなるので危険。

「トラッシュ」
低域を若干歪ませ、音に暖かみを加える。モヤモヤした感じがよりほしい時に使うと良い。

「スプレッド」
遅延音の音が太くなる。遅延音をもっと広げたいときに使う。

といった機能のツマミが搭載されている。例によってプリセットがあるので、それを活用するのもいいだろう。

余談だが、Adobeの製品は英語を日本語に訳した製品が多いため、変な日本語訳がある意味での見どころなのだが、Auditionに関しては変な日本語訳の宝庫なので、各エフェクターのプリセット名は一見の価値アリである。

パン(L・Rの操作)

パンとは、いわゆる左右のスピーカーで流す音量の割合である。
(ここでは前提条件として、作ろうとしているオーディオデータがモノラルや5.1チャンネルではなく、ステレオである場合で説明する)

一般的な設定だとパンはすべてセンターで設定されており、左右のスピーカーから流れる音量に差はないのだが、このパンを左右にズラすと、ステレオ感が増し、音が立体的に聞こえるようになる。

音楽的な話になってしまうが、前回説明した通りデジタル世界においてのオーディオデータは最大音量が決まっており、音圧は稼ぎたいのだが、各楽器の音はそれぞれクリアに聴かせたい、という問題はDTM界永遠のテーマである。

この問題を解決するテクニックの一つが、楽器ごとにパンを振り分けるという方法だ。典型的な例として、ツインギターのバンド音源において、片方のギターは右、もう片方は左から音が聞えてくるオーディオ編集があげられる(音楽業界で、このように各楽器の音量やパン、帯域を編集することをミックスと呼ぶ)。

もちろん、映像用のオーディオ編集でもこのパンを使いこなすことで動画のクオリティを上げることが可能だ。

例えば動画内で喋っている登場人物が画面の左側へ移動したときは音声も微妙に左へ寄せてやると、音が立体的に聞こえ、かつ自然に感じられる。また、一度に複数の音声を聞かせる必要がある場合(一つのシーンで登場人物二人が同時に喋るシーンなど)もそれぞれにパンの設定をしてやればより自然にそのシーンを再現できるだろう。

ここでひとつ注意しておきたいのが、パンはごく一部の例外を除いて0:100や100:0という割合は使わないほうが良いという点である。

安易にやりがちな設定ではあるものの、自然界において右耳だけで聞こえて、左耳では全く聞こえないという音はあまり無い。左耳で聞える音量が大きい、といっても右耳でも小さく同じ音を聞いている場合がほとんどであり、片耳だけでしか聞えない音は不自然さを生む原因となってしまう。

極端なケースでも、狙って視聴者の意表を突く使い方をしない限り、パンは80:20程度の割合にとどめておくのが無難だろう。

実際の使い方

今までは何か操作をしようとしたら何かのエフェクトを適用することが多かったが、パンに関しての操作は基本的にトラック上で直接操作する。

マルチトラックエディタのトラック部分左端についている操作盤に丸い円のツマミが二つあると思うが、左側がボリュームで右側がパンの設定である。

基本的にこのツマミを回しておけばその分左右のチャンネルで音が変化するので、トラックごとに求める設定をしよう。

また、同じ音源を別トラックにコピーして、それぞれのパンを逆に設定すれば、右耳用にエフェクト・左耳用エフェクトと分けてエフェクトがかけられる。

さらに、時間によって徐々にパンのツマミを変化させたい場合は前回説明したエンベロープのパンバージョンを弄ると設定可能だ。

音量のエンベロープは黄色い線で表されていたが、パンのエンベロープは青い線で表されているので、この線上にダブルクリックでポイントを打ち、それらを上下に移動することで時間によってパンを変化させることができる。ただし、この機能を使うとパンのツマミを直接弄れなくなってしまうため注意しよう。


上のトラックで「R12.2」となっているのがパンを弄るためのツマミ。下のトラック中でギザギザになっている青い線がパンのエンベロープ。

また、より複雑に左右の耳をくすぐるような効果を演出したいときはディレイの項で名前だけ紹介した「遅延」と「エコー」を使う。


遅延


エコー

「遅延」のツマミはLチャンネル(左)とRチャンネル(右)の両方が用意されており、「ディレイ」のツマミは前述した「アナログ遅延」の「ディレイ」に相当し、遅延時間を設定でき、「ミックス」のツマミで原音と遅延音の音の割合が変えられる。

「エコー」のツマミもLチャンネルとRチャンネルでそれぞれの設定ができる。

「ディレイ」と「フィードバック」は「アナログ遅延」で説明したとおりだが、「エコーレベル」で遅延音の繰り返し回数が制御できる点が特徴なので、繰り返し回数を多めにしたい場合はこちらのエフェクトを選択するといいだろう。

コーラス・フランジャー・フェイザー(音に厚みを持たせる)

コーラス・フランジャー・フェイザーの三つのエフェクターは非常に効果が似ているため、慣れないと違いが分かりにくい。乱暴に説明すると効果の強さがコーラス<フェイザー<フランジャーというふうに受け取ってもらって問題ないかと思われる。

いずれのエフェクターも原理的には「元の音にちょっとだけずらした原音を被せることで音に厚みをもたせる」という点において共通であるが、コーラスは音を広げる感覚であるのに対し、フランジャーとフェイザーは音に変調をかけるという感覚で使う。

コーラス

コーラスは文字通り、音声を二重にする効果を持つエフェクターだ。

使いどころは限定されるが、音を二重に感じさせることによって、まるで同じセリフを二人同時に喋っているかのような音声データを作れる。

実際にやっていることは原音をわずかに遅らせたものを原音とミックスすることで、音を二重にしているかのような効果をかけている。原理的には後述するフランジャーも含めディレイの仲間なのだが、ディレイが人間が繰り返しだと分かる間隔で音を再生するのに対し、コーラスは超短時間で同じ音を再生するため「遅延」ではなく「二重」に感じるのだ。

フランジャー

フランジャーは前述したコーラスと同じく原音を遅延させたものを元の音声にミックスするものだが、コーラスよりもさらに遅延時間が短く、音を二重にするというよりは音を変調しているかのような効果が得られる。

ギターなどの音に使うと煌びやかさが増したりするが、音声に使った場合はむしろ息苦しい、詰まった感じの音声になることが多い。

パラメータをいじることで色々と変わるが、水中や非常に狭い密室で録音したかのような効果が得られるので、特殊な状況であることを演出する際に使えるエフェクトである。

フェイザー

フェイザーはフランジャーと同じく音を変調させるような効果を持つエフェクトだが、実際にしている処理は遅延させた音を被せているのではなく、音の位相をズラしたモノを被せている点で全く異なる。

音の波形を視覚的に表す場合、横軸に時間、縦軸に音の振幅をとった表がよく使われるが(Auditionの波形エディターがまさにそれ)、コーラスやフランジャーが波形を横にズラした音をミックス(遅延)しているのに対し、フェイザーは縦にズラした音をミックス(位相をズラた音を同時再生)している。

フランジャーよりも定期的なうねりを持ち、シュワシュワした効果を与えるエフェクトであり比較的元の音声をかき消さないが、その分フランジャーよりさらに非現実的な効果をプラスするようなイメージで使うことになるだろう。

実際の使い方・コーラス・フランジャー

コーラスに該当するエフェクトは「エフェクト」メニューの「変調」から選べる「コーラス」及び「コーラス/フランジャー」だ。

また、フランジャーに該当するエフェクトは「コーラス/フランジャー」及び「フランジャー」である。原理的に非常に似たことをやっているため、エフェクトも両方の効果を持つものがあるのである。

まずは「コーラス」からだが、このエフェクトは設定項目がことさらに多いので効果の大きそうなツマミだけに対象を絞って説明する。他のツマミは各自で音の変化を確認しつつ弄ってみて欲しい。

「ボイス」
コーラスは二重に聞こえるような効果、と前述したが、ここで二重から十六重まで重ねる音を増やせる。

「ディレイタイム」
遅延時間。ディレイよりも短いが、ある程度の時間調節が可能。

「ディレイレート」
値を大きくすると遅延音が高音でシュワシュワしてくる、かなり過激に音が変わるツマミ。

「フィードバック」
ディレイのフィードバックと同じく、遅延音の減衰設定。

「スプレッド」
大きくすると、遅延音側の音が独立して聞こえるようになる。

「ドライ」
原音の音量。

「ウェット」
遅延音の音量。

次に、コーラスとフランジャーを兼ねる「コーラス/フランジャー」だが、こちらは「モード」のラジオボタンでコーラスモードとフランジャーモードを切り替えることができる。このモードによってそれぞれのツマミによる作用が異なってくのがミソだ。特に、フランジャーモードでの、原音の裏でスターウォーズの金色のロボットが喋っているような効果はこのエフェクトならではである。

「スピード」
コーラスモードでは値を大きくするほどかぶさっている音が原音と一体化するのに対し、フランジャーモードでは値が低いと装飾的な音声に、値が大きいと人声的な音に近づく。

「幅」
値を下げていくほど遅延音の低域が削られていき、コーラスモードでは単純な音量の調節に使えるが、フランジャーモードでは値を下げるほど切羽詰まった音声に聞こえる。

「強さ」
単純に遅延音の音量。

「トランジエント」
瞬間的に上がる音量を強調しているツマミ。両者モードの特性を強くする。

最後に、「フランジャー」の説明である。

このエフェクトは下部にある「モード」でかなり別物のエフェクトになるので、使いこなすのが難しいエフェクトだろう。「位相反転」はそれほど音質が変わらないケースが多いが、「特殊エフェクト」を適用するとよりキツめのエフェクト効果が得られ、「サイン波」を適用すると全く声の違う二人が同時に喋っているように聞こえる。

その他のツマミはそれぞれ、

「初期ディレイタイム」
値を上げるほど二人で喋っているように聞こえる。ステレオフェージングを弄っている場合は最終ディレイタイムと差をつけると効果が激しくなる。

「最終ディレイタイム」
値を上げるほど狭い管の中で喋っているように聞こえる。ステレオフェージングを弄っている場合は初期ディレイタイムと差をつけると効果が激しくなる。

「ステレオフェージング」
値が角度で指定するパラメータで、最大(360°)まで上げても最小(0°)と変わらないので注意。初期ディレイタイムと最終ディレイタイムの差が激しく、なおかつ値が180°に近いほど左右どちらかのチャンネルに強く効果がかかる。

「フィードバック」
他のエフェクトで設定できる同名パラメータと原理は一緒だが、ここではより金属音的効果を高くするツマミとも言える。

「変調レート」
値を上げると遅延音がビヨンビヨンした音になる。

といった効果がるが、他のツマミの設定次第で一概に言えない効果を発揮するので、プリセットも上手く使いつつ色々弄って遊びつつ効果を確認してほしい。

実際の使い方・フェイザー

フェイザーに該当するエフェクターは名のごとく「変調」から選べる「フェーザー」だ(今まで自分はフェイザーと説明してきたが、どうやらAuditionを日本語訳した人はフェーザーと訳する派だったようだ)。

また余談になるが、Auditionはところどころ日本語訳されてない部分があり、このフェイザーも上部「エフェクト」メニューの中では「フェーザー」なのにその個別ウィンドウを開くと英語表記で「Phaser」という表記に戻る。別に不便ではないのだが、多分いつか直るんだろうなぁと思う。

このエフェクトはコーラス・フランジャーに該当した三つのエフェクトよりも効果をハッキリとかけるのが難しく、各ツマミの兼ね合いによっては効果が得られないこともある。このエフェクトに関してもプリセットを上手く使いつつ、各ツマミの特性を把握していってほしい。

「ステージ」
ズラす位相の数。数が増えるほど波形にできる谷の数が多くなるので効果が強くなるというより音のキャラクターが変わる。

「強さ」
そのままフェイザー効果の強さ。

「デプス」
フェイザー効果の深度。強さとの違いは、強さは効果の強さを変えるツマミなのに対し、デプスは音質変化の幅を狭くしたり広くしたりするという点。

「変調レート」
周期的変化の速度。フェイザーエフェクトのぐるぐる回る感じを演出する重要なツマミだったりするが、音声データに対してかけるときは効果が分かり辛い可能性がある。

「フェーズ差異」
「フランジャー」エフェクトの「ステレオフェージング」と同義。ステレオ感はコーラス・フランジャーよりもフェイザーらしい効果を発揮するのに重要なので適度にズラしておくといいだろう。

「上限周波数」
ズラした位相の基点周波数。基本的に元となる音声データの一番主になる周波数(人声データであれば1~2kHz付近)に設定すると最も効果的。

「フィードバック」
他エフェクトの同名パラメータと同じ効果だが、ここでは-値も設定でき、どうやら位相が反転するようである。位相を反転させた波形は元の波形とぶつかると音を打ち消しあうので、普通のフィードバックとは逆の効果が得られる。

「ミックス」
位相をズラした音と原音の割合。

「出力ゲイン」
最終的な音量。フェイザー効果で音量が変わってしまったときに調整用として使おう。

ピッチシフター・フィルター・ディストーション(音質の加工)

リバーブ・ディレイやコーラス・フランジャー・フェイザーは元の音源に音を変調したものを重ね、パンは左右のチャンネルを振り分けるものだったのに対し、これらエフェクターは思いっきり元の音質を変えてしまうものである。

Auditionには強力なノイズリダクション機能やコンプレッサーなどが搭載されていることもあり、主な使用目的は音を綺麗にすることだが、シーンによっては音をわざと思いっきり変調させたり劣化させたい時もあるだろう。

そんな時に使えるエフェクターたちを最後に紹介したいと思う。

ピッチシフター

ピッチシフターは主に声の質を極端に変えるときに使う。

元の録音を最大限頑張れば男性の声を女声に、女性の声を男声に変えることもできなくはない。

しかし主な使い道はテレビの匿名インタビューでよく見る、あの「プライバシーの保護のため音声は変えてあります」を再現するためであろう。

楽器に対しては音階を変える意味を持つエフェクターではあるのだが、人間の音声に対しては正にあの音を再現するためのエフェクトである。

フィルター

フィルターに関しては前回も説明したが、音声データから特定の音を削るためのエフェクターである。

原理は非常に単純なのだが、機械を通した音声や、遠くからかすかに聞こえる音を再現したりと使い道は多い。

また他のエフェクターと組み合わせるとそのエフェクターの効果をより顕著にしたり、逆にまろやかにしたりと、合わせ技で真価を発揮するエフェクターでもある。

ディストーション

このエフェクターは物理的に危険な音量を生み出す可能性があるので、かけるときは聞こえるギリギリまでパソコンの音声出力を小さくしてから適用し、徐々に音量を上げないと危険である。設定と環境次第では、最悪鼓膜に深刻なダメージを与える危険があるので注意。

大事なことなので、でかい文字で警告したが、使い方を誤ると本気で危ないエフェクターである(なお、この記事が原因で何らかの実害があっても筆者は責任を負えません。念のため)。

しかし、安全に使えば壊れた機械から出力された音声や、非常に悪い録音環境を演出できるエフェクターなので、もしそういうシーンが必要なら注意を払いつつ、積極的に使っていこう。

原理的にはギターを歪ませる効果と同じで、自身が出せる限界を超えたアンプから出る音の波形をシュミレートしたものである。

だから適用後は当然音が大きくなったように感じるのだが、普通の音量で聞いていたはずの音を物理的な痛みを感じるほど大きくするような効果も設定できてしまうため、くれぐれも適用の際は元音量を下げておくようにしよう。

実際の使い方・ピッチシフター

ピッチシフターは「エフェクト」メニューの「タイムとピッチ」から選べる「ピッチシフター」がそれだ。

このエフェクトのツマミは比較的単純で迷うことなく使うことができるだろう。ただし、ツマミを弄ってから効果が表れるまで若干のタイムラグがあるようなので、エフェクトがかからないからといって慌ててパラメータを弄り過ぎないように注意。

「セミトーン」
ピッチを変える。値を上げるほど音が高く、下げるほど低くなる。

「セント」
さらに細かい調整。

「比率」
セミトーンとセントを一気に操るツマミ。

「精度」
低・中・高とあるが、精度をあげるほどPCへの負荷が上がるので必要な分だけ上げよう。

「スプライジング周波数」
値が大きいほど細かいピッチ補正が行われるが、大きくし過ぎると今度は音がこもったり割れたりするので注意。

「オーバーラップ」
ピッチシフターエフェクトにより音が途切れたり、コーラスエフェクトがかかったような状態になったときにそれを防ぐツマミ。

「適切なデフォルト設定を使用する」
「スプライジング周波数」と「オーバーラップ」を自動設定。通常はこれをオンにしておくと良い。

実際の使い方・フィルター

フィルターに該当するのが「エフェクト」メニューの「フィルターとイコライザ」から選べる「FFTフィルター」「ノッチフィルター」「サイエンティフィックフィルター」の三つだ。


FFTフィルター


ノッチフィルター


サイエンティフィックフィルター

これらエフェクトはツマミというよりは画面上の線にあるポイントを上下させて操作するものなので詳しい説明は省くが、それぞれ、

「FFTフィルター」は一番自由に設定ができる汎用フィルター。

「ノッチフィルター」はある一か所部分を狙い撃ちしてカットするフィルター。

「サイエンティフィックフィルター」は俗にいう「ローパス」や「ハイパス」「バンドパス」のように低域や高域といった比較的アバウトで広めの帯域をカットするフィルター。

と覚えておけば、自分の使いたいフィルターがどれなのか分かるだろう。シーンに合わせて使い分けて欲しい。

実際の使い方・ディストーション

ディストーションに該当するのは「エフェクト」メニューにある「スペシャル」の「歪み」だが、前述したようにかなり音が大きくなるので注意。

特にプリセットにある「最大限の苦痛」「無限のゆがみ」「究極の失敗」は冗談でつけている名前ではないので十分原音量を下げてから使うべきである。

このエフェクトもフィルターと同じく画面上の線を操作することで効果を変えるエフェクトである。

横軸が原音の音量、縦軸が加工後の音量を表し、原音量に対してどのような音量を上げるかを設定できる。また、それを正と負の両方(波形で言うところの上半分と下半分)別々に設定できるのもポイントだろう。

またグラフ部分の下にある「カーブスムージング」でポイントごとの折れ具合を丸くできるので、より自然な歪みを求めている場合はここで設定をしよう。

「設定」部分にあるパラメータはそれぞれ、

「タイムスムージング」
効果をかけるまでの遅延時間。

「db範囲」
歪みをかける範囲の制限。

「リニアスケール」
表内の単位をdbからノーマライズ値に変更。より細かい設定を行える。

「ポストフィルタDCオフセット」
DCオフセットという、通常デジタル録音時に起こるノイズ問題を自動補正するための設定。

という機能を持つので、必要に応じて設定してみると良い。

まとめ

「特殊効果編」の最後にとっておき(?)の裏技を解説しよう。

上部メニューの「ウィンドウ」から選択できる「エフェクトラック」から現在選択中のトラックにかかっているエフェクトが一覧でみられるのだが、そこにもプリセットが用意されている。

ここに用意されているプリセットはエフェクトごとに用意されている単体のものとは違い、複数のエフェクトがセットになって適用される、まさに実線向けのプリセットなので、とにかく特殊効果が欲しい時やエフェクトの合わせ技を学んだりするのに力を発揮してくれるだろう。この記事を読んで「やっぱり難しそう……」と思った人は是非このプリセットを活用して、ちょっとづつでもいいからエフェクト機能に慣れてみて欲しい。

最後になるが、三章にわたるAdobe Audition講座はいかがだったろうか。

長い! と言われるかもしれないが、この三つの記事で紹介した機能はまだまだ氷山の一角に過ぎない。

Adobe製品の中では埋もれがちで、なかなか話題に上がらないAuditionではあるが、Web業界の発展や、広告媒体の推移によって映像産業の需要はますます上がるものだと思われる。

しかし、人間は視覚動物であるので映像の部分のクオリティが求められるのは当たり前なのだが、意外と音声には気を使われてない映像もまだまだ存在するのが現状だろう。

そんな中、せっかくAdobeが全部セットにしてソフトを売り出してくれているのだから、Premiere ProやAfter Effectsばかりではなく、Auditionも活用して映像をより良いものにしてみてはいかがだろうか。

視覚には劣るといえど、映像は聴覚でも情報を訴えるモノである。

是非とも、あなたのフローにAuditionを加えて、ワンランク上の映像を世に送り出してみて欲しい。